「IQを上げる早期教育」が話題になる一方で、欧米の子育て・教育の研究では、実はIQよりも重視されている力があります。それが「非認知能力(non-cognitive skills)」です。忍耐力やコミュニケーション力、自制心といった、テストの点数には表れない力を指します。日本ではまだ「知育=IQ・学力」というイメージが強いですが、海外の教育経済学の世界ではこの非認知能力への注目がすでに一段階進んでいます。今回は、その考え方と根拠になっている研究、家庭での取り入れ方をご紹介します。
非認知能力とは何か
非認知能力とは、IQや学力テストのように数値化しやすい「認知能力」に対して、忍耐力・自制心・協調性・意欲・立ち直る力(レジリエンス)など、数値化しにくい心の力全般を指す言葉です。就学前の時期にこうした力の土台が育まれることが、その後の学業や社会生活に長く影響すると考えられています。
その知見の概要
この分野で世界的に知られているのが、ノーベル経済学賞を受賞した米シカゴ大学のジェームズ・ヘックマン教授の研究です。ヘックマン教授は、就学前の幼児教育への投資効果を経済学の手法で分析し、「幼児期の教育投資は、学力そのものよりも非認知能力の向上を通じて、将来の学歴・就労・収入などに長期的な効果をもたらす」という趣旨の主張を行ったことで知られています。この考え方は教育経済学の分野で広く引用され、欧米の幼児教育政策にも影響を与えてきました。
エビデンス(研究・書籍からの根拠)
ヘックマン教授の研究の土台のひとつが、米国で1960年代に行われた「ペリー就学前プロジェクト(Perry Preschool Project)」という追跡調査です。低所得家庭の幼児を対象に質の高い就学前教育を提供し、その後の人生を長期間にわたって追跡したこのプロジェクトでは、参加者と非参加者の間でIQの差は時間とともに縮まっていった一方、成人後の学歴や就労状況などの面で参加者側に良好な傾向が見られたと報告されています。ヘックマン教授はこの結果を、就学前教育が忍耐力や協調性といった非認知能力の土台を育てたためと説明しています。ヘックマン教授の著書『Giving Kids a Fair Chance』などでもこの主張が展開されており、「幼児期への教育投資は、他の時期への投資より効果が大きい」という考え方(いわゆるヘックマン曲線)は教育経済学の分野で広く知られています。海外の育児・教育書でも、テストの点数よりも「粘り強さ」や「好奇心」を重視する子育てが繰り返し語られる傾向があります。
すべての土台にあるのは”睡眠”
非認知能力を育てる関わり方の話をする前に、まず押さえておきたいのが睡眠の存在です。海外の子育て・発達に関する研究では、乳幼児期の十分な睡眠が、自制心や感情のコントロールといった非認知能力の発達の土台に関わるとされることが多く、寝不足の子どもは癇癪を起こしやすくなったり、物事への集中が続きにくくなったりする傾向が指摘されています。我が家では「1に、睡眠、2に、睡眠、3も4も、睡眠!!」と言えるくらい、何よりもまず子どもの睡眠時間の確保を優先しています。どんなに丁寧な声かけや関わり方を心がけても、寝不足の状態では子どもも大人も本来の力を発揮できません。次回は、この非認知能力の土台となる「睡眠」について、もう少し詳しく取り上げたいと思います。
日本の家庭でも大切にしたい理由
日本ではまだ「早期教育=文字や数字を覚えさせること」というイメージが強く残っていますが、非認知能力の考え方に立つと、特別な教材がなくても家庭で育める力だということが分かります。共働きで時間が限られているパパにとって、これは実はうれしいポイントです。高価なドリルや習い事がなくても、日々の関わり方そのものが子どもの力を育てる材料になるからです。
日本の家庭での実践方法
我が家で意識しているのは、結果よりも過程を認める声かけです。「できたね」だけでなく、「最後まで頑張ったね」「工夫したね」と努力や工夫のプロセスをほめるようにしています。また、子どもが何かに失敗して悔しがっているときも、すぐに助けずに少し見守り、自分で立て直す経験を積ませることも意識しています。ほかにも、家庭でできる関わり方として次のようなものが挙げられます。
- 子どもが自分で選ぶ場面(服・遊び・おやつなど)を意識的につくる
- 「なんで?」「どう思う?」と考えを聞く問いかけをする
- できなかったことより、挑戦したこと自体を認める
まとめ
非認知能力は、特別な教材や習い事がなくても、日々の親子の関わり方の中で育んでいける力です。そしてその土台には、何よりもまず十分な睡眠があります。忙しい共働き家庭でも、声のかけ方や見守り方、そして睡眠時間を少し意識するだけで、今日から取り入れられます。「知っているかどうか」で関わり方が変わる知見だからこそ、まずは一つの声かけや、今夜の就寝時間から試してみてはいかがでしょうか。

