「やり抜く力は、やり抜かないと身に付かない」——そう言われても、じゃあ具体的にどう関わればいいのか、頭ではわかっても実践に落とし込むのは難しいものです。「頭の良さ」だけでは説明できない力がある、と聞くとどう感じるでしょうか。アメリカでは、才能や知能指数だけでは測れない「やり抜く力」に注目した研究が広く知られ、子育てや教育の現場で参考にされることがあります。一方で日本ではまだ、この考え方は一般家庭にはあまり浸透していません。今回は、アメリカの心理学研究で知られる「GRIT(グリット)」という概念をもとに、共働き家庭で子どもの”やり抜く力”をどう育てていけるかを、具体的な関わり方のヒントとあわせて考えてみます。
その知見の概要
GRITとは、心理学者のアンジェラ・ダックワース教授(ペンシルベニア大学)が提唱した概念で、「情熱」と「粘り強さ」を組み合わせた、長期的な目標に向かって努力し続ける力を指します。ダックワース教授は、才能や知能の高さだけでは説明しきれない学業や仕事の成果の差に、このGRITの高さが関係している場合があることを、さまざまな集団を対象にした調査から報告しています。ただし、GRITが才能や知能より重要だと単純に序列づけられるものではなく、両者は補い合う関係にあるとされている点には注意が必要です。一時的なやる気ではなく、「同じ目標に向かって長く努力し続けられるかどうか」に着目している点が特徴です。
エビデンス:ダックワース教授の研究から
ダックワース教授らの研究成果は、2007年に学術誌『Journal of Personality and Social Psychology』に発表された論文「Grit: Perseverance and Passion for Long-Term Goals」としてまとめられています。この研究では、陸軍士官学校の新入生や、スペリング・コンテストの参加者、社会人などさまざまな集団を対象に、GRITの高さと目標達成度の関連が調べられました。ダックワース教授はこの功績により、2013年に「MacArthur Fellowship(通称:天才賞)」を受賞しています。また、その知見は著書『GRIT やり抜く力』(邦題)としてもまとめられ、世界的なベストセラーとなりました。なお、これらはあくまで既存の集団を対象にした相関関係を示す調査であり、「親の関わり方によって子どものGRITを伸ばせる」ことを直接実証した実験ではありません。また、GRITが成果をどの程度予測できるかについては、研究者の間でも議論が続いている段階です。その上で、GRITは生まれ持った固定的な資質だけではなく、日々の関わり方の積み重ねによって変化しうる力だと考えられている点は、多くの研究者が指摘しています。
日本の家庭での実践方法
ここから先は、GRITという考え方をヒントにした、共働き家庭での関わり方の一案です。研究そのものが検証した手法ではありませんが、参考にできる視点として紹介します。例えば、子どもが何かに取り組んでいるときに、結果だけでなく「最後まで諦めずに頑張っていた過程」に目を向けて声をかけることは、取り入れやすい工夫のひとつです。「できたね」だけでなく「途中で難しくても続けていたね」と伝えることで、子どもが”頑張り続けること”自体に価値を感じやすくなる、と言われています。また、親自身が何かに継続して取り組む姿を見せることも、子どもにとって身近なお手本になり得ます。忙しい毎日の中でも、習い事や勉強に限らず、日常のちょっとした場面で「続けること」を肯定する声かけを、無理のない範囲で意識してみるのもよいかもしれません。
まとめ
知能や才能だけでなく、「情熱」と「粘り強さ」を組み合わせたGRITという考え方が子どもの将来に関わりうる、という知見は、日本ではまだあまり知られていません。研究自体は特定の集団を対象にした相関調査であり、家庭での声かけの効果を直接証明したものではありませんが、この考え方を知っているだけで、子どもの結果だけでなく過程に目を向ける声かけを意識するきっかけになります。今日から、子どもが頑張り続けている場面を見つけて、ひとこと声をかけてみることから始めてみませんか。

