「危ないからやめなさい」——公園で子どもが高い遊具に登ろうとしたとき、木に登ろうとしたとき、つい口から出てしまう言葉ではないでしょうか。実は北欧の保育・教育現場では、こうした一見ハラハラする遊びを”リスキー・プレイ“と呼び、子どもの発達に欠かせないものとして積極的に取り入れています。日本ではまだあまり知られていないこの考え方について、その背景と家庭での取り入れ方を紹介します。
その知見の概要
リスキー・プレイとは、高いところに登る、速いスピードで動く、道具を使う、水や火に近づくなど、子ども自身が「ドキドキする」「危ないかもしれない」と感じながら挑戦する遊びのことです。大人がすべての危険を先回りして取り除くのではなく、子どもが自分で危険を見積もり、判断し、乗り越える経験そのものに価値があるという考え方が土台にあります。
エビデンス:ノルウェーの研究者が示す効果
この分野の代表的な研究者が、ノルウェーのクイーン・モード大学(Queen Maud University College of Early Childhood Education)のエレン・ベアーテ・ハンセン・サンドセター氏です。同氏はリスキー・プレイを「高い場所」「速いスピード」「危険な道具の使用」「危険な要素(火・水など)への接近」「乱暴に見える取っ組み合い遊び」「迷子になる・見えなくなる」という6つのカテゴリーに整理し、子どもたちがこうした遊びを通じて自分の身体能力や環境のリスクを実地で学んでいると報告しています。同氏とノルウェー科学技術大学(NTNU)の心理学教授レイフ・エドワード・オッテセン・ケナイア氏による論文「Children’s Risky Play from an Evolutionary Perspective」では、こうしたスリルを伴う経験が、将来の過度な恐怖心(高所恐怖症など)を和らげる可能性があるという進化心理学的な視点も示されています。なお、個々の研究結果には限界もあり、リスキー・プレイの効果を絶対視するものではなく、あくまで一つの有力な仮説・視点として紹介されているものです。
なぜ北欧ではリスキー・プレイが重視されるのか
北欧の保育現場では、「小さなケガのリスクを完全にゼロにしようとすると、子どもが自分でリスクを判断する力を育てる機会そのものを奪ってしまう」という考え方が根底にあります。大きなケガにつながる危険は大人が管理しつつ、擦り傷程度のリスクは子どもの挑戦として見守る、というバランス感覚が特徴です。
日本の家庭での実践方法
我が家では、公園で高い遊具に挑戦しようとしたとき、以前はすぐに「危ない、やめて」と止めていました。今は次のように関わり方を変えています。
- まず子どもに聞く:「ここ、登れそう?」と本人の見立てを聞いてから見守ります。
- 大きな危険だけ先回りする:転落して頭を打つ高さかどうかなど、命に関わるリスクだけは事前にチェックします。
- すぐに手を出さない:少し不安定でも、本人が自分でバランスを取ろうとする間はあえて手を貸しません。
- 挑戦を言葉で認める:「よく登れたね」「自分で考えたんだね」と、結果よりも挑戦した過程を認めます。
共働き家庭だからこそ気をつけたいポイント
時間に追われていると、「早く公園を出たいから危ないことはさせない」という判断になりがちです。すべての場面で挑戦させる必要はなく、時間に余裕がある休日だけでも、子どもの「やってみたい」という気持ちに付き合ってみる、といった使い分けで十分です。
パートナーとの価値観のすり合わせ
正直なところ、リスキー・プレイという考え方には大賛成な一方で、我が家でも悩ましい部分があります。子どもの「挑戦したい」という気持ちにできるだけ応えてあげたいと思う一方、危険に対する心配の度合いは人それぞれで、夫婦の間でも意見がぴったり一致するとは限りません。私自身は、車や自転車が行き交う場所を走り回るといった命に関わる明確な危険はしっかり避けつつ、公園の遊具から落ちて擦り傷を負う程度の「遊びの中でのリスク」はできるだけ見守る、という線引きを意識しています。ただ、このバランス感覚を夫婦でぴったり合わせるのは簡単ではなく、日々すり合わせながら調整しているのが正直なところです。
まとめ
リスキー・プレイという考え方を知っているだけで、公園で子どもが挑戦しようとしたときの声のかけ方が少し変わるかもしれません。すべての危険を取り除くことだけが、子どもを守ることではない——今日、その視点を一つ持ち帰ってみてはいかがでしょうか。

